MUSIC VIDEO
GORO NAKAGAWA
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NAOBUMI OKAMOTO
Dig-Music Gazette 04
二倍遠く離れたら
2011年3月11日の大地震と、それによって引き起こされた東京電力の福島第一原子力発電所のとんでもない大事故。
とんでもない事故が起ったと誰もがわかっていても、その実態はなかなかわからない。政府や原子力保安院、東京電力は、持っている情報をすべて明かさず、いったいどんな事故なのかも説明せず、「大丈夫だ」、「心配することはない」を繰り返すばかり。
そんな「大本営発表」はまったくの嘘っぱちだということをマスコミは知りながらも、真実を追究しようとはしない。ほんとうはとんでもないことになっているはずだと、いろいろと動き回ったり、自分の考えを述べたりする人たちに対しては、「不安を煽っている」、「パニックを引き起こそうとしている」といった言葉が投げかけられたりする。
どうなっているのか真実はわからず、何を信じればいいのかもわからない状況が続く中、第一原発の近くの福島や茨城の人たちだけではなく、ぼくの住んでいる東京でも、放射能が恐ろしい、ここにいたら危ないのではないかと、遠くに「避難」する人たちが次々と現われた。
そしてそんな人たちに対して、「大本営発表」を鵜呑みにしたり、自分で考えたり調べたり何もしようとしない人たち、すなわち事態の深刻さにまったく気づいていない人たちは、「騒ぎ過ぎだ」、「不安を煽るな」という非難を浴びせかける。とんでもない事態に対して、ほんとうは力を合わせて立ち向かわなければならないはずの人たちの間で、対立が生じてしまっているのだ。
その時ぼくが思い浮かべたのが、「二倍遠く逃げたなら 二倍強く思ってください」というフレーズだった。遠くへ逃げるのは、自分だけが助かりたいという利己的な気持ちからではなく、より強く思い、深く考え、大きく行動するためであってほしいというぼくの思いをそこに込めた。しかし「逃げる」という言葉は、どうしても「自分さえ助かればいい」という利己的でネガティブなニュアンスが付きまとうので、「逃げる」を「離れる」に変えることで、遠ざかる行為、遠ざかろうとする判断に、よりポジティブな意味合いを与えようとした。
そして「二倍遠く離れたら」という歌ができあがり、ぼくはとどまった側の人が離れた側の人に呼びかける歌として、最近のライブで必ず歌っていた。
しかし昨日、8月10日に東京の日比谷野外音楽堂で開かれた制服向上委員会プロデュースの集会『げんぱつじこ 夏期講習』で、生まれ住んだ福島県飯舘村の酪農家、長谷川健一さんの話を控室で直接聞き、離れた人のあまりにも強い思いに気づかされ、ぼくはその集会で「二倍遠く離れたら」を歌う直前に、3番の歌詞の最後を書き変えることにした。
もちろん強制的にふるさとを離れなければならなかった長谷川さんをはじめとする飯舘村の人たちと、「だいじょうぶだ」、「騒ぎ過ぎだ」と冷たい目で見る人たちがまだまだ多い中で東京を離れた人たちとでは、その立場や思いは違うところもいっぱいあるだろう。でもぼくは長谷川さんが無念の気持ちや怒りでいっぱいになって語ってくれた話を聞いて、この歌の3番の最後の部分を離れた人のポジティブな気持ちをもっとストレートに伝えるものにしようと思ったのだ。
この日からぼくが歌い始めた「二倍遠く離れたら」は、この映像で歌っている歌詞とは違って、こんなふうに変わっている。
二倍遠く離れたら 二倍強く思っています
五倍遠く離れたら 五倍大きく動いています
二倍強く思って 二倍深く考えています
五倍大きく動いて 五倍この国を変えてみせます
中川五郎
Dig-Music Gazette 03
For a Life
中川五郎さんとのコラボレーションであるDig Music Gazette。当初、あらかじめ決まった方向性を持って始めた訳ではなかった。「1台のリヤカーが立ち向かう」がすべての始まり。1人の人間の歌う歌が、彼の口から世界に放たれてどこへ向かっていくのか。
僕自身が歌い手と関わり、それを世界に放つことで、歌と映像が変化していく様をほんの少しでも知ることが出来るのではないかと思った。そんな行くあてのない「歌と映像の旅」を始めようと思っていた矢先に起きた東日本大震災。 それがDig Music Gazetteの行く先を導き出した。
今、歌と映像について考える時、震災によって起こった出来事を避けて通ることは出来ない。 歌も映像もそのこと自体を歌い、映す訳ではないけれど、3月11日以降、ずっとその重い荷物を背負っている。
この先、その荷物を下ろすことも多分、無いだろう。
「生きているためには何が必要?」「本当に必要なものは何?」と最初に歌われた時、ソマリヤやリオ・デ・ジャネイロの貧しい子どもたちと、日本の子どもたちとは違う世界に立っていた、のだろう。けれど、3月11日を経た今、「FOR A LIFE 」で歌われる子どもたちはみな、同じ地平に立っていることに気付く。
今回の「FOR A LIFE 」が倉庫のようなスタジオで歌われた時、僕の頭の中では後期ビートルズの演奏が降りて来ていた。PANTAさんの作ったそのメロディのせいだろうか。アビーロードスタジオで録られたリンゴ・スターのドタバタとしたドラムスと弦楽器の響き。 五郎さんの弾くギターと古館純のベース。それにドラムスと弦の音を友人の北里玲二にオーバーダビングしてもらい、出来上がったのが今回のDig Music Gazette 03。
岡本尚文